2021年5月 森のたより
お休みが続くだけなのに、なんだかウキウキしてしまうようなゴールデンウイークですが、今年はなんだか錆びた鉄のような連休になってしまいました。
マスクの毎日が当たり前の日常になって一年になります。「新しい生活様式」が推奨され、マスク着用によって大人の表情が見えない日常が長期化する中、子どもの育ちに影響はないのだろうかと案じています。マスクをしていると、大人同士の会話ですら聞こえにくいときがあります。さらに表情や口の動きが見えないので、相手が伝えたいことや気持ちが読み取りにくく、それは、逆に自分の気持ちも伝わってないのかなと思うことがあります。子どもでも同じことが言えましょう。
先日。京都大学の教育学教授の明和教授のレポートを拝見しました。「直接的な因果関係を検証することは不可能です」としながらも「ヒトの脳の発達原理に基ずくと、やはり何かしらの影響がでてくるリスクはあると考えます」とありました。
当初は乳児のお部屋で育児するときのマスクは止めますよと皆さんに通知しましたが、緊急事態が宣言され、感染の可能性が高まる中で、すべての保育時間帯で保育者のマスク着用をお知らせしました。その後、フェイスシールドを作ってみたり、購入したりで幾度となく挑戦しましたが、なかなか着用感が良い製品がなく、ほとんどあきらめ、日常はマスク、行事はフェイスシールド、と併用しての毎日が現在も続いています。
改めて園の保育者の皆さんにもなにか感じていることはありませんかと尋ねてみました。
幼児では「意外と声が伝わる」「自分の意思を伝えようとがんばったり、相手の気持ちをマスク越しに読み取ろうとする姿がみられる」「しっかり顔をみようとしている」という報告もあれば、「保育室の中で子どもと目が合うときがある。そんな時、以前はニコッと笑ってあげるとあそびに戻っていったけど、マスクをしてると笑っている表情が見えないので戸惑う姿がある」ともあります。顔の半分を覆ってしまうマスクは、マスクをしてなかった日常の顔をを覚えている子にとっても関わりの困難を感じているのですね。
乳児でも大人の言葉をしっかり聞き取ろうとする姿が見られているようです。小さな子の言葉の獲得は口の動きと聞こえる音で学んでいきます。「口元が見えないせいか、言葉の獲得がいつもより困難になっていると思います」とか、「聞き取ろうとするのですが、耳の情報だけでは疲れてしまうのか、集中できなかったり興味が移ってしまうと情報が途切れることもあるようです」と報告があり、「時々マスクを外すと不思議そうに、だんだんと嬉しそうな顔を見せてくれます」とのこと。
明和教授のレポートは、「今、日本で実践されている『新しい生活様式』は、完成された脳を持った大人目線からのものであり、脳発達の途上の子どもの立場に立って提案されたものではないことを意識しておきたいものです。マスク着用の生活が長期化する中で、この生活が始まった時期に生まれたこどもは、もう1歳を迎えます。脳発達の点において乳幼児期の1年は、とても大きな意味を持ちます。(略)子どもの視線に立った生活のありかたや支援を、喫緊の課題として考えるべきです」とレポートは結んでありました。
園では1年間、いろいろな工夫を考えてきました。ワクチン接種者が増え、感染グラフが下がっていっても、マスク生活とはなかなか離れられないようです。
これからも子ども一人ひとりの発達や成長を考えながら、マスクとファイスシールドを併用し、時にはマスクをはずすなど、工夫しながら毎日を過ごしていくようにします。
皆さまにもお子様に優しい笑顔を見せてのおしゃべりとかかわりをお勧めします。